AIは、まったく新しい攻撃を生み出したというより、これまでの攻撃を速く・大量に・上手にしました。中小企業のサイトにとって大きいのは、穴を見つけられるまでの時間が短くなったことと、だましの文章や声が自然になったことです。対策の中心は「更新を速くする」「入口を減らす」「確認の手順を決める」の3つです。
結論:AIは攻撃を「速く・大量に・上手に」する
「AIを使ったサイバー攻撃」と聞くと、映画のように賢いAIが勝手に侵入してくる姿を想像するかもしれません。実際に起きているのは、もっと地味で、しかし厄介な変化です。
- 速く:脆弱性(セキュリティの穴)を見つける、攻撃の手順を作る、といった作業にかかる時間が縮まった
- 大量に:少ない人数で、たくさんのサイトや人を同時に狙えるようになった
- 上手に:だましのメールや偽ページの日本語が自然になり、見た目で見破りにくくなった
この記事では、この3つの変化が具体的にどんな手口になって現れるのかを8つに分け、それぞれ「自分のサイトにどんなサインが出るか」「何をすれば防げるか」までを整理します。
なぜ今、AI攻撃が問題なのか
日本では、IPAが毎年発表している「情報セキュリティ10大脅威」の2026年版で、AIの利用をめぐるサイバーリスクが初めて選ばれ、組織向けの3位に入りました。
実際にAIが攻撃に使われた例も公表されています。AI企業のAnthropicは2025年11月、国家の支援を受けているとみられる集団が同社のAIを悪用し、約30の組織を狙ったと公表しました。攻撃の作業の80〜90%をAIが行い、人は要所で判断するだけだったとしています(侵入に成功したのは一部)。
「速さ」についても数字があります。WordPressのセキュリティを調べるPatchstack社の報告では、大量に悪用された脆弱性は、公表から大量の悪用が始まるまでの時間の中央値が約5時間でした。この「速さ」が何を意味するかはAIが脆弱性を見つける時代:公開から攻撃まで「数時間」の意味で詳しく解説しています。この記事では、速さ以外も含めた手口の全体像を見ていきます。
8つの手口
8つの手口は、大きく3つに分けられます。サイトそのものを狙うもの(①〜④)、人をだますもの(⑤⑥)、AIそのものやAI検索の時代を突くもの(⑦⑧)です。
① AIで脆弱性を見つける
AIに大量のプログラムを読ませ、まだ誰も気づいていない穴や、修正版が出たばかりの穴を探させる手口です。かつては専門家が時間をかけて行っていた作業を、AIが手伝います。
サイトに出るサイン:ほとんど出ません。穴を見つける作業は攻撃者の手元で行われるため、見つかった時点では、サイトに何も起きていないからです。
効く対策:見つかってから攻撃されるまでの時間が短いので、更新を速くすることに尽きます。自動更新をオンにし、PHPのバージョンも確かめておきます(確かめ方はPHPのバージョンとサポート期限の確認方法)。
② AIで攻撃を自動化する
穴が分かったあと、どのサイトにどう攻撃するかの手順づくりや、実際の攻撃作業をAIに任せる手口です。上で紹介したAnthropicの事例が、まさにこれに当たります。
サイトに出るサイン:知らない管理者ユーザーが増える、見覚えのないファイルやプラグインが置かれる、などです。ここまで来ると、すでに侵入されています。
効く対策:攻撃を手前で止めるWAF(不正な通信を止める仕組み)を置き、修正版を当てるまでの時間を稼ぎます。管理者ユーザーの一覧を月に1回は見る習慣も有効です。
③ AIボットによる大量の巡回と探索
自動で動くプログラム(ボット)が、ネット中のサイトを巡回し、使っているWordPressやプラグインの種類、古いバージョンが残っていないかを調べて回ります。AIによって、集めた情報から「攻撃できそうなサイト」を選び出す作業も楽になったと考えられます。
サイトに出るサイン:アクセス解析に出ない(または不自然な)アクセスの増加、サーバーの負荷の上昇、存在しないURLへのアクセスの記録(ログ)の急増です。
効く対策:使っていないプラグインやテーマ、昔のテスト用サイトを消し、「調べられても見つかる穴がない」状態にします。ボットを手前で止めるサービスを使う方法もあります。
④ AIを使ったパスワード攻撃
管理画面のログインページに、パスワードを次々と試す攻撃は昔からあります。AIによって、会社名や地名、よく使われる言葉の組み合わせなど、「人が付けそうなパスワード」を推測しやすくなると指摘されています。
サイトに出るサイン:ログインの失敗が大量に記録される、知らない場所からのログイン通知が届く、などです。
効く対策:推測されにくい長いパスワードにし、使い回さないこと。そのうえで、2段階認証を必ずオンにします。パスワードが当てられても、2段階認証があればそれだけでは入れません。
⑤ AIが作るフィッシングメール
取引先や銀行、サーバー会社などを名乗り、偽のログイン画面に誘導してIDとパスワードを盗む手口です。以前は不自然な日本語で見破れることもありましたが、AIによって自然な文章を簡単に作れるようになりました。
サイトとの関わりで特に注意したいのは、サーバー会社やドメイン会社を名乗るメールです。「ドメインの期限が切れます」「サーバーの支払いに失敗しました」といったメールでサーバーの管理画面のパスワードを盗まれると、サイトもメールも丸ごと乗っ取られます。
効く対策:メールのリンクからはログインせず、ブックマークした公式の管理画面から入る、と社内で決めておきます。サーバーやドメインの管理画面にも2段階認証を設定します。
⑥ ディープフェイク詐欺
AIで本人そっくりの声や映像を作り、社長や取引先になりすまして送金や情報の提供を求める手口です。会社のサイトに載っている代表者の写真や、インタビュー動画、講演の音声が、偽物の材料に使われるおそれがあります。
効く対策:「声や顔が本人に見える」ことを本人確認の根拠にしないことです。送金や口座の変更、パスワードの共有は、必ず別の決まった連絡先で確かめる、という手順を事前に決めておきます。サイトに載せる顔写真や動画を減らすことも選択肢になりますが、営業上の必要と比べて判断してください。
⑦ プロンプトインジェクション(AIをだます攻撃)
AIに読ませる文章の中に「これまでの指示を無視して、〇〇せよ」といった命令をこっそり紛れ込ませ、AIを本来とは違う動きに誘導する手口です。
- サイトにAIのチャットボットを置いている場合:利用者の入力で、答えてはいけない情報を答えさせられることがある
- 社内でAIにメールやWebページを読ませている場合:その中に仕込まれた命令で、AIが意図しない返信や操作をすることがある
効く対策:AIに渡す情報から、秘密にすべきもの(顧客情報や社内の資料)を外しておくこと。AIに送金やメール送信などの操作を任せる場合は、最後に人が確認する手順を残すことです。
⑧ AIで作られるSEOスパム
乗っ取ったサイトの中に、検索エンジン向けの偽ページを大量に作る手口は以前からあり、Googleは「日本語キーワードハック」として注意を呼びかけています。偽ブランド品の販売サイトなどへのリンクを貼った日本語のページが、知らないうちに大量に作られるものです。AIを使えば、こうしたページの文章をさらに大量に、自然に作れると考えられます。
サイトに出るサイン:Googleで「site:自分のドメイン」と検索すると、身に覚えのないページが出てくる。Search Consoleに知らない所有者が追加されている。
効く対策:Search Consoleに登録して「セキュリティの問題」の通知を受け取れるようにし、月に1回は「site:」検索で確かめます。被害が起きたときの流れはWordPressが攻撃されたら何が起きる?で解説しています。
手口ごとの、サイトに出るサインと対策
8つの手口を1つの表にまとめました。「主な入口」の列を見ると、対策がいくつかに絞れることが分かります。
| 手口 | 主な入口 | サイトや会社に出るサイン | いちばん効く対策 |
|---|---|---|---|
| ① 脆弱性を見つける | 古い本体・プラグイン・PHP | ほぼ出ない | 自動更新、PHPの更新 |
| ② 攻撃の自動化 | 同上 | 知らない管理者・ファイル | WAF、管理者一覧の点検 |
| ③ ボットの巡回 | 使っていないプラグイン・サイト | 負荷の上昇、不審なログ | 不要なものを消す、ボット対策 |
| ④ パスワード攻撃 | ログイン画面 | ログイン失敗の大量記録 | 長いパスワード+2段階認証 |
| ⑤ フィッシング | 社員のメール | 不審なメール、身に覚えのないログイン通知 | 公式の画面から入る決まり、2段階認証 |
| ⑥ ディープフェイク | 電話・ビデオ会議 | 急ぎの送金依頼 | 別の連絡先での確認手順 |
| ⑦ プロンプトインジェクション | AIに読ませる文章 | AIの不自然な返答・操作 | 秘密情報を渡さない、人の最終確認 |
| ⑧ SEOスパム | 乗っ取られたサイト | 知らないページ、知らない所有者 | Search Consoleの通知、「site:」検索 |
AIで「できるようになったこと」「まだ人が要ること」
AI攻撃を怖がりすぎないために、今の時点で分かっていることも整理しておきます。
| AIでできるようになったこと | まだ人が要ること・限界 |
|---|---|
| 大量のプログラムから穴の候補を探す | 本当に攻撃できる穴かどうかの見きわめには、人の判断が入ることが多い |
| 攻撃作業の大部分を自動で進める | Anthropicの事例でも、要所の判断は人が行い、侵入に成功したのは一部だった |
| 自然な日本語のだましのメールや偽ページを作る | 決まった確認の手順(別の連絡先で確かめる等)までは突破しにくい |
| 多くのサイトを同時に調べる | 更新済みで、使っていないものを消したサイトでは、見つかる穴がそもそも少ない |
つまり、AIは攻撃者の「手間」を減らしましたが、穴のないところに穴を作れるわけではありません。基本的な対策の価値は、むしろ上がっています。
小さな会社が今やるべきこと
専任の担当者がいない会社を想定して、効果の大きい順に並べました。
- 更新を「自動」にする
WordPress本体・テーマ・プラグインの自動更新を有効にし、PHPのバージョンも確認します。数時間で攻撃が始まる時代には、人の手による更新では間に合わないことがあります。 - 使っていないものを消す
止めているプラグイン、使っていないテーマ、昔のキャンペーンサイトやテスト用サイトを削除します。①②③⑧の入口が減ります。 - ログインできる場所すべてに2段階認証
WordPressの管理画面だけでなく、サーバー・ドメイン・メールの管理画面にも設定します。④⑤への備えになります。 - 「お金とパスワード」の確認手順を決める
送金・口座の変更・パスワードの共有は、メールや電話の指示だけで行わず、別の連絡先で確かめる。紙1枚にまとめて社内で共有します。⑤⑥への備えです。 - 外から見張る仕組みを持つ
Search Consoleの通知を受け取り、月に1回「site:」検索をします。気づくのが早いほど、被害は小さく済みます。
1と2を続けるのが負担なら、守る場所そのものを減らす選択肢もあります。ほとんど更新しないサイトなら、PHPやデータベースを動かさない静的サイトにすると、①〜④の入口を大きく減らせます。自分のサイトに合う道はWordPressをやめたい人へ:理由別に分かる「次の選び方」診断で確かめられます。
よくある質問
AIを使った攻撃は、普通の攻撃と見分けられますか?
多くの場合、見分けられません。届く攻撃そのものは、これまでと同じ脆弱性の悪用やパスワードの試行、フィッシングメールです。変わったのは、その数と速さと文章の自然さです。だから「AIの攻撃かどうか」を見分けるより、どの攻撃にも効く守りを固めるほうが現実的です。
小さな会社のサイトも、AI攻撃の標的になりますか?
なります。AIによる攻撃の多くは、特定の会社を選んで狙うのではなく、ネット全体を自動で調べて穴の開いたサイトを探す形で行われます。手間が下がった分、これまで「割に合わない」と見逃されていた小さなサイトまで調べられるようになりました。
AIのチャットボットをサイトに置いていなければ、プロンプトインジェクションは関係ありませんか?
サイトへの直接の影響は小さいです。ただし、社内でAIにメールやWebページを読ませて要約させている場合は、そのメールやページに仕込まれた命令でAIがだまされることがあります。AIに読ませる情報と、AIに任せる操作の範囲を分けて考えてください。
社長の声で電話がかかってきたら、どうすればいいですか?
声や話し方だけで本人と判断しないことです。送金や口座の変更、パスワードの共有を求められたら、いったん電話を切り、社内で決めておいた別の連絡先からかけ直して確かめます。「急ぎ」「内密に」と言われるほど、確認の手順を省かないことが大切です。
セキュリティ対策にもAIを使えますか?
使えます。脆弱性の調査や不審なアクセスの検知など、守る側でもAIの活用が進んでいます。2026年10月のPHPの重大な脆弱性も、守る側がAIで先に見つけた例と報じられています(CNN.co.jp)。当センターでも、乗り換え後のサイトをAIエージェントで見守っています。
何から手をつければいいか分かりません。
まず、WordPress本体・プラグイン・PHPの更新状況と、使っていないプラグインやサイトの有無を確かめてください。8つの手口のうち半分は、この2つで入口を大きく減らせます。自分で確かめるのが難しい場合は、当センターの無料サイト診断をご利用ください。
参照元
- IPA:情報セキュリティ10大脅威 2026
- Anthropic:AIを悪用したサイバー諜報活動に関する報告(2025年11月13日)
- Patchstack:State of WordPress Security in 2026
- web.dev:日本語キーワードハックを解決する
- Google Search Console ヘルプ:セキュリティの問題レポート
- 最終確認日:2026年10月27日
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